この記事を読むと次のことが分かります。
- 「猫は単独行動の動物」はどこまで本当か(進化と社会性の科学)
- 「平気」と「快適」は別もの——個体差と年齢による社会性の違い
- ストレスのサインの見方と、量より質で考える関わり方
「猫は1匹でも平気」はよくある誤解の入り口
「猫は1匹でも平気」「犬と違って留守番に強い」——猫の飼い方を調べたりするときに、こうした言葉を目にしたことがあるのではないでしょうか。
私自身はまだ飼育経験のない一人ですが、調べていくと、これらの言葉は半分は的を射ていて半分は誤解であると分かってきました。
イメージのもとにあるのは、「猫は単独で狩りをする動物」「群れで動く犬とは違う」という習性です。たしかに猫は群れる動物ではありません。しかし、それですべて説明できるかと言うと、いくつかのズレがあります。
この記事では、次の3つの誤解を順にほどいていきます。
まずは、その土台になる猫の生態を見ていきます。
科学から見る——猫は「単独性」と「社会性」をあわせ持つ
近年の研究では、猫の社会性について次のようなことが分かってきています。
もともと、すべてのイエネコの祖先は、砂漠地帯で暮らしていたリビアヤマネコという野生のネコでした。単独で狩りをして暮らす動物だったのです。
やがて人が農耕を始め、蓄えた穀物にネズミが集まるようになると、そのネズミを求めて猫のほうから人の暮らしのそばへ近づいてきた——これが家畜化の始まりだと考えられています。つまり「もともと群れない動物」という点は、本当です。
ところが、人と暮らすなかで猫は変わってきました。
餌が十分にある環境では、血のつながったメスを中心にゆるやかな集まり(コロニー)を作ります。子育てを助け合ったり、互いに毛づくろいをしたり、体をこすりつけ合ったりすることが分かっています。
群れを作れる柔軟さそのものは、もともと猫に備わっていたものです。それが、人のそばで餌が安定して得られる環境で表れやすくなったと考えられています。
上下関係のある犬の群れとは違う、猫なりのやわらかな社会性です。街なかで数匹の猫が同じ場所に集まっているのも、こうした柔軟さの表れといえます。
さらに、猫が飼い主を「安心のよりどころ」にしているとうかがわせる研究もあります。
見慣れない環境でも飼い主がそばにいると落ち着く——そうした反応を示した猫が、調べた猫のうち3分の2ほどにのぼったという報告です。「1匹で生きられる」ことと「人に関心がない」ことは、同じではありません。
こうして並べてみると、「猫は1匹でも生きられる」のは本当です。でも「だから寂しさを感じない、孤独が好きだ」とまでは言えません。生きられること(平気)と、心地よく過ごせること(快適)は、分けて考える必要があるのです。
猫の「単独性」による3パターンの誤解
前の項で見た生態を踏まえると、冒頭の3つの誤解は次のように見直せます。
| よくある思い込み | 実際は |
|---|---|
| 単独で狩りをする動物だから群れず、孤独が好き | 狩りは単独でも、社会的な絆は持つ。群れ方が犬と違うだけ |
| 1匹で平気だから、寂しさは感じない | 「生きられる」と「快適」は別。退屈やストレスは感じうる |
| どの猫も同じように1匹でいるのが平気 | 性格・年齢・育ちで社会性は大きく変わる |
ひとつ補っておきたいのが、「猫は単独行動の動物」という表現です。行動学では「単独で狩りをする動物(単独狩猟動物)」と説明されることが多いようです。
狩りのスタイルと、仲間や人との関わりは別のこと。ここを分けて考えると、誤解はずいぶんほどけていきます。
個体差を知る——性格・年齢・育ちで変わる社会性
「どの猫も1匹でいるのが平気」とは言えない、というのが3つ目の誤解への答えです。猫が1匹で過ごす時間をどう感じるかは、その子によってかなり違います。
性格の幅は、人が思う以上に大きいものです。甘えるのが好きな猫もいれば、適度な距離を好むマイペースな猫もいます。品種の傾向として語られることもありますが、より大きいのは個体差です。1匹1匹の個性として見るのが自然です。
年齢によっても変わります。子猫(1歳未満)は、人や仲間との関わりから多くを学ぶ時期です。成猫(1〜10歳)になると、1匹で過ごす時間に比較的強くなる猫が多くなります。シニア(11歳以上)では、環境の変化に敏感になりやすい傾向があります。
どの年齢から迎えるかで暮らし方も変わるので、年齢別の違いは別記事『子猫と成猫、どちらから迎える?』で詳しく扱っています。
育った環境も影響します。生後まもない「社会化期」と呼ばれる時期に、人やほかの猫とおだやかに触れ合った経験は、その後の社会性に影響がでるとされています。早くに母猫から離れた猫が、人や他の猫との関わりに敏感になることもあります。
とはいえ、迎える前から「うちの子はどのタイプか」を見極める必要はありません。猫を迎えてから、様子を見ながらつかんでいけば十分です。
留守番のストレスサインと「分離不安」
1匹で過ごす時間が続いたとき、猫が落ち着かない様子を見せることがあります。よく挙げられるのは、次のようなサインです。
- いつもより激しく鳴く
- 飼い主のあとを追う
- 物を落としたり壊したりする
- トイレ以外の場所で排泄する
- 体を舐めすぎる(毛づくろいのしすぎ)
- 食欲や吐き戻しに変化が出る
ただし、これらはすべてが「孤独によるストレスのサイン」とはかぎりません。退屈、暑さ寒さ、体調など、原因はいくつも考えられます。サインが出たからといって、すぐに「分離不安症」と結びつけるのは早すぎます。
2020年の研究によると、飼い主へのアンケートで約13%の猫に、留守番に関連したサイン(激しく鳴く、粗相をするなど)が見られたという報告があります。一方で、多くの猫ではそうした行動は報告されませんでした。同じ留守番でも、感じ方には猫ごとに幅があることがうかがえます。
大切なのは、よく見られる範囲の甘えや鳴きと、気にかけたほうがいい状態とを、分けて見ることです。「ちょっと寂しがり屋なのかな」という程度であれば、過度に心配しすぎなくて大丈夫。
一方で、サインが長く続いたり程度が強かったりして、どうしても気になるときは、かかりつけの獣医師に相談してみてください。猫との暮らしには、頼れるプロがそばにいてくれます。
なお、最近はSNSやネット記事で「在宅時間が増えて、留守番に弱い猫が増えている」という声も見かけます。ただ、それを公的に裏づけるデータは、調べた範囲では確認できませんでした。不安をあおる情報に引きずられず、目の前の猫の様子で判断するのが確かだと考えます。
留守番時間の目安や、留守中に整えておきたい環境については、別記事『猫の留守番は何時間までOK?』で具体的に扱っています。
「生きられる」から「快適に過ごせる」環境へ
猫が1匹でも「生きられる」のは事実です。そこから一歩進んで「快適に過ごせる」に近づけるには、何ができるでしょうか。
動物福祉団体のガイドラインでは、猫の環境に必要な要素の一つとして「一貫した、予測できる人との関わり」が挙げられています。
鍵になるのは、かまう時間の長さよりも、関わりの質と予測しやすさです。毎日だいたい決まったタイミングで遊ぶ、声をかける、なでる——その積み重ねのほうが、猫の安心につながりやすいとされています。
部屋づくりの工夫、たとえば上下運動できる場所や隠れ場所、外を眺められる窓辺は、別記事『猫が喜ぶ部屋づくり』で扱っています。留守中の様子が気になる場合は、見守りカメラという選択肢もあります(別記事『Catlog導入前の全調査』)。
寂しさ対策として2匹目を考える方もいます。猫同士で過ごせる利点はありますが、相性次第ではお互いのストレスになることもあります。「1匹でかわいそうだから」という思いだけで急いで決める必要はありません。
まずは1匹との暮らしに慣れて、その子の性格や生活リズムをつかんでから考えても遅くはありません。多頭飼いは、関わり方の選択肢の一つとして、ゆっくり検討すれば十分です。
そして、毎日長時間べったり付き合う必要はありません。短くても予測できるリズムがあれば、猫は落ち着きます。完璧を目指さず、迎えてから猫の様子を見ながら整えていけば十分です。
よくある質問
単独で狩りをしてきた猫にとって、1匹で暮らすこと自体は不自然ではありません。かわいそうかどうかは頭数ではなく、関わりの質で決まる部分が大きいといえます。
毎日少しでも遊びや声かけの時間があれば、1匹飼いでも安心して過ごせる猫は多いです。逆に、寂しさ解消だけを目的にした2匹目は、相性次第でうまくいかないこともあります。先にその子との暮らしを知ってから考えても十分です。
個体差が大きく、一概には言えません。多くの猫は留守番に慣れていきますが、退屈や落ち着かなさを感じる猫もいます。鳴き方や行動にいつもと違うサインがないかを見てあげてください。
留守番できる時間の目安は、別記事『猫の留守番は何時間までOK?』で扱っています。
飼えます。鍵になるのは、関わりのリズムと留守番中の環境です。決まったタイミングで関わる習慣と、安全で快適な留守番環境が整えば、日中家を空ける生活でも猫と暮らせます。
詳しい条件は別記事『一人暮らしで猫を飼う完全ガイド』『共働きで猫を飼う完全マニュアル』をご覧ください。
たまに甘える・少し鳴く程度は、よく見られる範囲です。一方で、留守のたびに激しく荒れる、自分を傷つけるほど舐め続けるなど、程度が強く続く場合は、ケアや治療が役立つこともあります。
サインには退屈や体調など複数の原因がありうるため、気になるときは一人で抱えず、かかりつけの獣医師に相談してみてください。
必ずしもそうとは言えません。猫同士で過ごせる利点はありますが、相性が合わないとお互いのストレスになり、かえって関係がこじれることもあります。「1匹でかわいそうだから」だけを理由にせず、先住猫の性格や迎える環境を踏まえて判断したいところです。
傾向としては違います。子猫(1歳未満)は人や仲間との関わりから多くを学ぶ時期で、長い留守番は負担になりやすいとされます。成猫(1〜10歳)は1匹で過ごす時間に比較的強くなる猫が多くなります。
年齢ごとの違いは別記事『子猫と成猫、どちらから迎える?』で詳しく扱っています。
まとめ
猫は1匹でも「生きられる」動物です。でも、いつも1匹がいいわけではありません。単独で狩りをする一面と、人や仲間とゆるやかにつながる社会性。その両方をあわせ持つのが猫です。
だからこそ大切なのは、「平気かどうか」の二択で考えることではなく、その子の個性と暮らしの環境に合わせて、関わり方を整えていくことです。長くかまうより、予測できるリズムで。完璧を目指すより、迎えてから猫を見ながら。そう構えておけば、肩の力を抜いて猫との暮らしに向き合えるはずです。
次の一歩
- 『猫の留守番は何時間までOK?』 ➡ 留守番時間の目安と、留守中に整えたい環境
- 『一人暮らしで猫を飼う完全ガイド』 ➡ 一人暮らしで迎える条件と備え
より深く知りたい方へ
- 『子猫と成猫、どちらから迎える?』 ➡ 年齢別の性格・社会性の違い
- 『猫の自動給餌器・自動給水器』 ➡ 留守番中の食事と水の備え
関連トピック
- 『「猫は水を飲まない」の誤解を解く』 ➡ 同じ砂漠由来の体質から考える誤解シリーズ
- 『「保護猫は病気持ち」の誤解を解く』 ➡ 誤解シリーズの考え方を別テーマで
参考にした情報源
